中長期計画は、未来を語ることから始まる
楽しい未来
保育園の中長期計画というと、少し堅苦しい印象があるかもしれません。3年後、5年後を見据えて、園の課題を整理し、目標を定め、具体的な取組を計画する。
もちろん、そうした作業は必要です。けれども、私は、中長期計画を考えることは、本来もっと楽しいものではないかと思っています。
例えば、職員が集まって、こんな問いから話し始めてみたらどうでしょう。
「3年後、どんな園になっていたら嬉しい?」
子どもたちが、もっと自由に遊びを選べる園。保護者が気軽に立ち寄り、子育てについて語り合える園。職員が自分の得意なことを活かし、新しいことに挑戦できる園。あるいは、今ある園庭をもっと面白く使いたい、地域の人たちと一緒に何かを始めたい、という話が出てくるかもしれません。
まずは、こんな園にしたいという思いを自由に出し合う。私は、そこから中長期計画を始めてもよいと思うのです。
未来を語ると、互いの思いが見えてくる
園には、さまざまな経験や考え方を持つ職員が働いています。毎日一緒に保育をしていても、同僚がどんな園をつくりたいと思っているのか、案外知らないこともあるのではないでしょうか。
ある職員は、子どもが自分で考えて遊べる環境をもっと充実させたいと思っている。別の職員は、保護者とゆっくり話せる機会を増やしたいと考えている。また別の職員は、若い職員が安心して挑戦できる職場にしたいと願っている。
どれも、園の未来につながる大切な思いです。ところが、最初から「何が課題ですか」「何を改善すべきですか」と尋ねると、話し合いはどうしても、今できていないことや困っていることに向かうのではないでしょうか。
もちろん、課題を見つけることも必要です。ただ、最初から問題点を探すのではなく、まずは自分たちが実現したい未来を語り合ってみる。
そのときは、「それは難しい」「予算がない」「人手が足りない」といった判断を、少し後回しにしてもよいでしょう。
誰かの「こんなことができたらいいな」という言葉に、別の誰かが「それなら、こんなこともできそう」と応じる。そうして話が広がっていくうちに、一人では思いつかなかった園の姿が見えてくることがあります。
中長期計画をみんなで考える面白さは、単に多くの意見を集められることだけではありません。互いが何を大切にし、どんな未来を願っているのかを知る機会にもなることです。
今の園にある、未来の芽を見つける
未来について自由に語り合ったら、次に、今の園の姿を見つめてみます。
ここで大切にしたいのは、できていないことだけを探さないことです。
例えば、「子どもが自分で遊びを選べる園にしたい」という意見が出たとします。
では、今の園では、子どもが自分で選んでいる場面はないのでしょうか。保育室の一角で、子どもたちが好きな遊びにじっくり取り組んでいる。散歩先で見つけたものから、翌日の活動が広がっている。子どもの何気ない一言をきっかけに、保育者が環境を変えてみた。
そんな実践が、すでにあるはずです。それを見つけたとき、「もっと新しいことを始めなければ」という話が、「今ある良い実践を、どう広げていこうか」という話に変わります。
普段は当たり前だと思っていた実践が、少し違った価値を持って見えてくるのではないでしょうか。
今の園の課題にも目を向ける
もちろん、中長期計画は、実現したい未来を思い描くことだけから始まるものではありません。今の園が抱えている課題や、改善したいことから考える必要もあります。
日々の保育や園運営では、さまざまな困りごとが生まれます。職員間の情報共有がうまくいかない。保育の進め方にばらつきがある。若い職員の育成が思うように進まない。
こうした問題は、目の前の対応に追われていると、その都度解決することで終わってしまいがちです。
例えば、職員間で必要な情報が伝わっていなかったとします。そのとき、申し送りの方法を見直すことも必要でしょう。けれども、同じような問題が繰り返されているのであれば、もう少し背景を考えてみる必要なないでしょうか。
情報を伝える機会が足りないのか。何を共有すべきかについて、職員間で認識が異なるのか。あるいは、情報は伝わっていても、その意味や対応の意図までは共有されていないのか。同じ「情報共有がうまくいかない」という問題でも、背景によって課題は異なります。
そして、そもそも、どのような情報を、何のために共有したいのか?課題の先に求めたい姿があるはずです。
今ある強みと、改善したい課題。その両方を見つめることで、自分たちが目指す未来の姿も、より具体的になっていくのではないでしょうか。
未来から、今を考えてみる
中長期計画を考えるうえで、もう一つ面白いことがあります。それは、時間の見方を変えられることです。
普段、今ある問題をどう解決するか、明日何をするか、来月の行事をどう進めるかというように、現在から少し先のことを考えることが多いのではないでしょうか。もちろん、日々の園運営には欠かせない視点です。
けれども、中長期計画では、少し先の未来に立って、今を振り返ることができます。
例えば、3年後には、職員が互いの保育について気軽に語り合い、新しい取組を自分たちで考えられる園になっていたい。そう考えたとします。
では、2年後には、どんな姿になっていたらよいでしょう。
職員同士で実践を振り返り、互いの工夫を学び合う機会が、今より増えているかもしれません。
それなら、1年後にはどうでしょう。
まずは月に一度、日々の保育で見つけた小さなエピソードを持ち寄り、語り合う時間をつくることから始められそうです。
3年後の姿を考えたことで、来月からできることが見えてきました。
未来の園の姿を思い描き、そこから現在を眺め直すことで、これまで気づかなかった取組が見えてくる。
日々の会議も、職員研修も、保育記録も、ばらばらに行われている仕事ではなく、園が目指す未来につながるものとして考えられるようになります。取組の意味が変わります。
中長期計画には、そんな働きもあると思います。
計画をつくる過程にも、意味がある
ここまで考えてくると、中長期計画の価値は、完成した計画書だけにあるのではないことが分かります。
・未来の園について語り合う。
・自分たちの強みや弱みを見つめ直す。
・目指す姿を確かめ、その実現に向けて何ができるかを考える。
その過程で、職員は園の運営を、自分たちにも関係のあることとして考えるようになります。
たしかに、園長や経営層が考えた計画を職員に説明し、理解してもらうことも、一つの方法でしょう。しかし、職員自身が未来を語り、計画づくりに参加することには、それとは違った意味があります。
自分の意見が、園の未来を考える材料になる。同僚の思いを知り、自分の考えも少し変わる。話し合ったことが、これから園として取り組むことにつながっていく。その経験は、計画が完成した後にも残るはずです。
そして、自由に意見を出し合う時間と、出された意見を整理して決める時間は、分けて考えたいものです。
最初から実現可能性だけを考えてしまえば、発想は広がりません。一方で、自由な意見交換だけで終われば、未来への期待は具体的な取組につながりません。
自由に考えることと、実現に向けて選び取ること。
その両方があるからこそ、話し合いが計画へと育っていくのだと思います。
計画は、つくって終わりではない
もちろん、未来を語り合うだけで中長期計画が完成するわけではありません。
目指す姿を定めたら、その実現に向けて何に取り組むのかを考え、単年度の計画に落とし込んでいく必要があります。
そして、実際に取り組んでみて、何が変わったのかを確かめる。
例えば、職員同士で保育について語り合う機会を増やしたのであれば、会議の回数だけでなく、どんな話が交わされるようになったのか、そこから保育にどんな変化が生まれたのかを見ていきたいものです。数値で確かめられることもあれば、職員の言葉や日々のエピソードから見えてくる変化もあります。
また、3年後の姿を描いたからといって、そのとおりに進めなければならないわけでもありません。
子どもや保護者の状況が変わることもあれば、新しい職員が加わり、これまでになかった考え方や得意なことが持ち込まれることもあります。
実践を重ねる中で、当初は想像していなかった可能性が見えてくるかもしれません。うまくいかないこともあるでしょう。
そんなときには、計画を見直してもよいのです。
目指す姿を持ちながら、日々の変化や新しい発見を採り入れていく。
計画は、未来を固定するためのものではなく、未来に向かって歩み続けるためのものなのだと思います。
【関連するオススメ記事】
活力のある組織には、小さな挑戦があります。改善を過去の否定ではなく、次の一歩につなげる考え方については、こちらの記事をご覧ください。
書いた人
よねだ保育園サポート 米田 太郎(プロフィールはこちら)
第三者評価の評価者として保育園の現場に関わりながら、園運営や職員育成、計画づくり、記録の活用などを支援しています。
自園の場合はどう考えればよいか、整理が必要なときはご相談ください。
関連記事
分類を選ぶと、関連する記事が表示されます
.png)
.png)
.png)
.png)