土曜日シフト「リフ休」に見る、小さな経営改革
― 理念を実践に落とし込む工夫 ―
保育園の働き方改革というと、残業時間の削減、休暇取得、ICTの導入、書類の簡素化などが思い浮かびます。もちろん、それらは大切な取組です。しかし、実際の園運営では、制度を一つ整えればすべてが解決するわけではありません。
子どもの人数に応じた職員配置を守りながら、週6日・11時間開所し、職員の週休二日や有給休暇の取得も確保していく。その調整は難しく、理念やスローガンだけでは進みません。日々の勤務表や役割分担にまで落とし込まれる必要があります。
ここで紹介するのは、ある認可保育所で生まれた「リフ休」という工夫です。「リフ休」とは、「リフレッシュ休日」の略称です。土曜日の勤務において、早番、普通番、遅番に加え、職員が土曜日に休む枠を勤務表の中に組み込んだものです。単なる「休み」ではなく、次の勤務に向けてリフレッシュするための「当番」として位置づけているところがユニークです。
1.土曜日勤務シフトの悩み
認可保育所では、土曜日も開所する必要があります。土曜日の利用児童数は平日より少ないことが多いですが、必要な職員配置を守り、安全に保育を行う体制は欠かせません。そのため、土曜日の勤務をどのように組むかは、多くの園にとって悩ましい課題です。
土曜日を2交代で組むと、当日の職員体制には余裕が生まれます。しかし、その分だけ土曜日に勤務する職員数が増え、年間を通じて週休二日を確保するためには、平日に休みを設ける必要が生じます。すると平日の勤務体制が薄くなり、有給休暇を取りづらくなる可能性もあります。
一方で、土曜日を3交代で組むと、職員の勤務日数は抑えやすくなります。しかし、土曜日当日の配置はぎりぎりになります。突発的な欠勤があった場合、配置基準を下回らないようにするため、管理職が自宅で待機するような負担も想定されました。
つまり、土曜日の保育を安定させながら、年間の週休二日を確保し、平日の有給休暇の取りやすさも損なわない。そのため、勤務表の組み方そのものを見直す必要がありました。
2. 休みを当番のように勤務表の中に組み込む
そこで生まれたのが、「リフ休」という考え方です。
早番、普通番、遅番という勤務枠に加え、土曜日に勤務しない職員の枠を「リフ休」とし当番として位置づける。これにより、土曜日勤務の体制を維持しながら、職員が土曜日に休める機会を勤務表の中に組み込むことができます。
この取組の面白さは、単に土曜日の休みを増やしたことにあるのではありません。「休みたい人が休む」のではなく、「休日を当番として回す」という仕組みにする意味があることです。
休むことを欠員や不在として捉えるのではなく、保育を安定して続けるための前向きな要素として位置づけているからです。
3. 事業計画と理念につながっていたこと
この取組が特に価値を持つのは、「リフ休」が単発の思いつきではなかったということです。この園では、平成28年度から平成30年度までの中長期計画において、「業務省力化を進め、平成30年度末には時間外労働を0にする」ことを重点課題に掲げていました。そこでは、時間外労働の削減を単なる労務管理上の数値目標として扱うだけではありませんでした。
計画書では、残業の削減を、職員のストレス軽減、職員の元気、安心して働ける職場、職員の笑顔、保育の安定とさらなる活性化へとつながるものとして説明していました。時間外労働の削減が、園の理念や行動規範と結びつけて整理されていたのです。
残業を減らすことも、勤務表を見直すことも、単なる効率化ではなく、園が大切にしている理念を、日々の運営の中で実現するための取組だったのです。「リフ休」は、その考え方が勤務表に落とし込まれた具体例といえます。
4.10年を経過した現在も続く取組として見る
平成28年度から、すでに10年が経とうとしています。現在では、時間外労働の削減や働きやすさの確保は、保育園にとって「当たり前の取組」になっています。採用活動においても、残業が多いことや休みが取りづらいことは、大きな不安材料になります。
そのため、この取組を今振り返れば、過去の「残業0を掲げていた取組」に見えてしまい、新鮮さはありませんが、そう見るのでは十分とは言えません。本当に注目したいのは、理念と課題解決を結びつけ、その計画を勤務表の具体的な工夫に落とし込み、さらに人員体制や時代の変化に合わせて運用し続けている点です。
制度は、作っただけでは生き続けません。担当者、職員構成、土曜日の利用状況、行事の考え方が変われば、かつて有効であっても、そのままでは現状に合わなくなることがあります。しかし、この園では、制度の外形を守ることを目的とせず、「今の園の状況において、職員の元気、安心して働ける職場、保育の安定につながる勤務の組み方は何か」という考え方を大切に、理念に照らして実践しています。理念とのつながりがあるからこそ、制度の形に固執しすぎず、その時々の状況に合わせて手を加えることができます。
5.実践を知的財産として残す
この取組のブレイクスルーは、「リフ休」というシフトの工夫にあるのではありません。勤務シフトの問題を解決するだけでなく、休むことを、勤務に穴が空くことから、保育を安定して続けるための勤務設計として捉え直し、職員の休息を個人に委ねず、勤務表の中に前向きな役割として組み込んだ点にあります。
大きな制度改革だけが、経営改革ではありません。日々の勤務表の中にも、組織の考え方は表れます。どこに余白をつくるのか。誰か一人に負担を寄せないために、どのように役割を回すのか。職員が働き続けるために、休息をどう位置づけるのか。そうした問いに向き合うことも、保育園における経営改革の一部です。
保育現場には、このような小さな工夫が数多く眠っています。けれども、それが「その時の担当者が工夫したこと」として扱われるだけでは、園の財産として残りません。
大切なのは、取組の外形だけではなく、背景にある考え方を残すことです。どのような課題があったのか。なぜその方法を選び、どの条件のもとで有効だったのか。状況が変わったとき、どこを変え、どこを残すべきなのか。こうした問いを言葉にしておくことで、実践は次の職員にも引き継がれる知的財産になります。そのためには、実践の背景や判断をどのように記録しておくかを、あわせて考えていくことも重要になります。
「リフ休」は、一つの勤務シフト上の工夫です。しかし、その背景には、理念を計画に落とし込み、計画を現場の実践に変え、実践を状況に合わせて更新し続ける組織文化があります。
働き方改革は、特別な制度名や大きな掛け声だけで進むものではありません。現場の制約を見つめ、理念に立ち返り、勤務表や業務の進め方にまで具体化していく。その積み重ねの中に、他園にとっても参考となる実務の知見があります。
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書いた人
よねだ保育園サポート 米田 太郎(プロフィールはこちら)
第三者評価の評価者として保育園の現場に関わりながら、園運営や職員育成、計画づくり、記録の活用などを支援しています。
自園の場合はどう考えればよいか、整理が必要なときはご相談ください。
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