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ICTアプリやAIを園の道具にするには、導入初期の学習コストを見込む必要がある

 保育の現場でも、ICTやAIに期待が寄せられる場面は増えてきました。記録や連絡、振り返りや分析まで、うまく使えれば助かることは少なくありません。けれど、導入しただけで自然に定着するわけではないのも実際ではないでしょうか。便利になるはずの道具が、かえって戸惑いや負担を増やしてしまうこともあります。では、何がその差を生んでいるのでしょうか。ここでは、導入初期に見落とされやすい「学習コスト」に目を向けながら、園でICTやAIを道具として根づかせるために必要なことを考えてみます。

1. なぜ園でICTアプリやAIの活用が進まないのか

 園でICTアプリやAIが進まない理由は、操作の難しさだけではありません。ICTやAIが進まない理由を、「苦手な人がいるから」と受け止めてしまうと、大事なことが見えにくくなります。実際には、ボタンの押し方がわからないこと以上に、導入の仕方そのものが負担を大きくしている場合があります。なぜ止まってしまうのかを考えるとき、まずは個人の能力ではなく、導入の条件や進め方に目を向ける必要があるのではないでしょうか。

 多機能な道具は、便利である前に覚える負担を増やしやすい。多機能であることは、たしかに魅力です。ひとつの仕組みで多くのことができれば、効率がよさそうにも見えます。けれど、導入初期の現場にとって、それは本当に使いやすさにつながるのでしょうか。機能が重なれば重なるほど、どこに何があり、何をどう使い分けるのかを覚える必要が出てきます。便利さの前に、まず構造を理解する負担が立ち上がってくるのです。

 

2.学習コストの正体を丁寧に捉える

 学習コストは、覚える時間だけではなく、教える時間や仕事の機会損失も含んでいます。学習コストというと、本人が覚えるための時間だけを思い浮かべがちです。けれど実際には、それだけではありません。教える側にも時間が必要ですし、慣れない間は本来できたはずの仕事が後ろにずれることもあります。迷いながら進めることで、判断のリズムが崩れることもあるでしょう。学習コストとは、単なる勉強時間ではなく、園全体の時間配分を組み替える負担として見たほうが実態に近いように思います。

 学び始めやすさを支えるには、失敗を戻せる設計が欠かせません。新しい道具を使うとき、人が慎重になるのは当然です。まして保育の現場では、記録や連絡に関わるものほど、「間違えたらどうしよう」という不安が強くなります。だからこそ、導入初期には、失敗しても戻せること、試しても影響が広がりすぎないことが大切になります。少し試して、戻して、またやってみる。その繰り返しができる設計であれば、学び始める心理的な負担はかなり変わってくるのではないでしょうか。

 学習コストはゼロにできないからこそ、予算と計画に組み込む必要があります。ここで考えておきたいのは、学習コストはなくせないということです。道具を採り入れれば負担が消えるわけではありません。導入時に「すぐに使えるはずです」「簡単です」と見せすぎると、実際に負担が立ち上がったときに、「なんだ、結局できないのか」という失望につながりやすくなります。なので、学習コストをゼロに見せることではなく、最初からあるものとして見込み、予算や計画、体制の中に置くことではないでしょうか。


 

3. 導入初期を前に進めるための設計が必要

 どこまでできれば成功かを先に決めることで、導入初期の失望は小さくできます。導入がうまくいかない理由のひとつに、成功のラインが曖昧なことがあります。最初からすべてを使いこなすことを暗黙の前提にしてしまうと、達成感は得にくくなります。では、まずどこまでできれば十分なのでしょうか。対象を絞り、期間を区切り、小さな到達点を明示することで、導入初期の見通しはかなり変わります。ひとまずここまでできれば前進だとわかれば、現場の手応えも生まれやすくなります。

 園長や主任に求められるのは、使いこなすことより導入条件を整えることです。園長や主任が担うべきなのは、誰よりも詳しい利用者になることではないはずです。何のために導入するのかを絞り、誰が教えるのかを決め、どこで試すのかを整えることではないでしょうか。学ぶ時間や迷ってよい期間を、個人の努力だけに任せないことも欠かせません。導入初期を支える条件づくりこそ、管理職の大事な役割として見えてきます。

 最初から全部入りを目指すより、まず一つ試せるところから始めたい。ここまで見てくると、導入初期に必要なのは、何でもできる仕組みより、まず一つ試せる入口だと言えそうです。連絡、記録、振り返り、休憩把握など、どの仕事を先に扱いたいのかを絞ってみる。そこから小さく始めるほうが、学習コストも見えやすく、教える側の負担も整理しやすくなります。最初の一歩を軽くすることが、結果として先の広がりにつながるのではないでしょうか。

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