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保育現場でOODAループを活かすための条件

 昨今福祉の現場へ応用できる考え方としてOODAループが注目され、厚労省の資料でも紹介されています。(OODAループについて 厚労省資料はこちら


 現在の保育現場では、不適切な保育を防ぐための基準の明確化と、子どもの主体性を尊重する個別の関わりの両方を、高い次元で成り立たせることが求められています。管理を強めればよいという話ではなく、個々の判断に委ねればよいという話でもありません。そうした日々の現場の難しい判断について考えるうえで、OODAループは示唆を与えてくれます。
 

 観察し、状況を捉え、判断し、動く。この流れ自体は、保育者にとって日常的なものです。ただし、これを個人の経験則にとどめず、組織の力として活かしていくためには、先に整えておくべき条件があります。

1. 保育は「判断の連続」

 保育の業界でも、マニュアルの整備やPDCAサイクルを意識した取り組みが重視されてきました。その背景には、保育が長く、人の経験や熱意に支えられてきた一方で、運営や判断の基準が個人に委ねられやすかったことがあります。実践を言葉にし、手順や方針を確かめ、振り返りながら改善していく必要性が求められてきたのは、保育を誰かの力量だけに依存させず、組織として積み上げていくためでもありました。


 ただ、保育は決められた通りにだけ進む仕事ではありません。相手は機械ではなく、発達や性格、生活背景の異なる子どもたちです。その場の空気や表情、友だちとの関係、保護者とのやりとりを踏まえながら、いま何を優先するかを考えなければならない場面が日々生じます。子どもの様子をみる。状況を受け止める。必要な関わりを考える。実際に動く。この流れは、多くの保育者がすでに日常の中で行っていることです。


 だからこそ問われるのは、何やら新しい「OODAループ」を回しているかどうかではありません。何を見て、どう意味づけ、何を基準に判断しているのか。その中身こそが重要です。OODAループを保育現場に引き寄せて考えるとき、大切なのは、判断のよりどころに従って、観察し、見立て、決め、行動する過程を、その場に応じてはやく回していくことではないでしょうか。

2.「善意の判断」がバラバラになるリスク

 同じ場面を見ても、人によって受け止め方は異なります。ある職員は見守ることが大切だと考え、別の職員は、いまは援助したほうがよいと考えるかもしれません。どちらも子どものためを思っての判断であっても、その根拠が園の中で確かめられていなければ、実践は少しずつばらついていきます。
 

 誰もが、その場で最善と思う行動を取りたいと考えています。しかし、何をもって最善とするのかがそろっていなければ、その判断は組織としての実践ではなく、個人の感覚による独自の対応になりかねません。善意に基づく判断であっても、よりどころが曖昧なままであれば、それは園全体としての実践になりにくいはずです。
 

 OODAループは、その場に応じて動ける考え方として魅力があります。ただ、土台のないまま用いれば、それは柔軟な実践ではなく、ただの自己判断に傾きやすくなります。いまの保育現場で必要なのは、自由に判断することではなく、何を根拠に判断するのかを明確にしたうえで動くことです。

 

 さらに言えば、個人の「よかれ」と思った判断が組織の基準と共有されないまま実行され、万が一の結果を招いたとき、その責任の矢面が個人に向かってしまう危険もあります。組織の共通認識の上に判断を位置づけることは、保育の質を高めるだけでなく、現場で戦う職員一人ひとりを守るセーフティネットにもなるのです。

3. パイロットに学ぶ「自由な判断」の前提条件

 もともとOODAループは、航空機を操縦するパイロットの訓練とも関係する考え方として知られています。そこでは、機体を正しく扱う基本技術があり、何を達成するのかという目的も明確です。自由に判断してよいように見えて、その前提には、正しく操縦できることと、目指すべき方向が定まっていることがあります。
 

 この前提を抜きにして、判断と行動の過程だけをはやく回そうとしても、本来の意味では機能しません。保育の現場でも同じで、基礎となる援助技術や安全意識、子ども理解の視点、園としての目的が職員の中に根づいていてこそ、その場の判断が力を持ちます。

4. マニュアルは、現場に安心とはやさを与える

 マニュアルが単なる文書ではなく、判断の基準として機能していること。中長期計画が、日々の実践と切り離されたものではなく、少し先の園の姿を示していること。理念や方針が、掲げられているだけでなく、職員の判断の中に息づいていること。これらの条件が整っているとき、OODAループは属人的な判断の連続ではなく、組織として方向のそろった即応の積み重ねとして働き始めます。


 その意味では、マニュアルや計画は、その場の判断を縛るものではありません。むしろ、何を見て、どう受け止め、どう動くといった根拠や理由を明確にすることで、現場が迷いなく動くための基盤になります。迷ったときに何を優先するかが職員ごとにずれず、急な場面でも判断の起点がそろっているからこそ、その場に応じた対応が可能になります。基盤があるからこそ、判断と行動の過程を、安心してはやく回していくことができます。

 

5.即応した実践は、あとから熟考し、組織へ戻す

 その場に応じて判断し、行動できることは、保育の現場にとって欠かせない力です。保育の現場では、説明よりも対応が先になることが少なくありません。しかし、そこで終わってしまうと、周囲には「うまく対応した」という結果だけが残り、その過程は見えにくくなります。それでは、実践は再現しにくく、別の職員が同じような場面に向き合ったときの手がかりにもなりません。


 あとから実践を振り返り、なぜその対応を選んだのかを熟考し、言葉にして確かめることで、即応した実践は組織の知見へと変わっていきます。それは同時に、職員間の相互理解と共通認識の質を高め、次の判断を支える土台にもなります。前述のとおり、理念やマニュアル、計画によって判断の土台を整えておくことに加え、日々の実践を振り返り、その判断の意味や根拠を職員間で確かめていくこともまた、重要な営みです。


 その場での判断と実践、そしてあとからの熟考は、別々の営みではありません。実践が熟考によって組織の知見となり、その知見が次の判断を支えていく。この循環があるとき、OODAループは個人の経験則ではなく、園全体の力として働き始めるのだと思います。

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