top of page

保育園で活かしたい、気づきを促す設問設計

 保育園では、行事、保護者会など、さまざまな場面でアンケートが行われています。アンケートは、満足度や要望を把握するための大切な方法です。
 

 アンケートは「意見を集め、確かめる道具」にとどまりません。設問の立て方によっては、保護者がまだ言葉にできていない価値に目を向けるきっかけにもなります。ここでは、アンケートを「気づきを促す道具」として活かす考え方について整理します。

1.意見や要望を丁寧に聞き、改善に活かす

 「満足しましたか」「困ったことはありましたか」「改善してほしいことはありますか」といった質問は、多くのアンケートで使われています。感想や要望を把握し、園運営の課題を見つけることを目的に設定されたものです。


 情報の利用価値を高められるよう、満足度を5段階などで数値化し、自由記述でその理由や背景を補うと、経年変化や改善点を読み取りやすくなります。また安全や苦情に関わる意見は、一般的な感想とは分け、確認・検討・対応の基本を決めておく必要があります。
 

2.「不満の解消」と「価値の共有」の違い

 前段のような質問から得られる情報は、主に相手がすでに意識している満足、不満、要望です。保護者から寄せられる「案内が分かりにくかった」「説明が足りなかった」といった声は、不足や不便を感じたところから出てきます。


 要望を中心に聞く設問が続くと、保護者の意識は「何が足りなかったか」「どこが不便だったか」に向きやすくなります。また自由記述で「ご意見をお書きください」と聞けば、保護者からの感謝の気持ちや要望は出てきます。​​


 寄せられた感謝は職員のモチベーションにつながるし、要望は、「困りごとを減らす」「不満を解消する」といった改善に活かせます。

 

 ただ、これらの改善は、不足しているものを補う、いわば「マイナスをゼロ」にする営みです。対応に追われ、ゼロにする営みが続けば、現場はどんどん疲弊してしまいます。そこで、さらにもう一歩踏み込み、アンケートを保護者との価値共有「プラスをつくる」機会としてはどうでしょうか。

 

3.園と保護者の意識のズレ

 園と保護者の間にある『意識のズレ』を示す興味深い調査結果をご紹介します。保育者・保護者・教諭を対象にしたある調査において、保育者のうち、「園が生活の場として評価されている」と認識している割合は20%でした。一方で、保護者の50%は、園を単なる預かり先ではなく、家庭と並ぶ「生活の場」として見ていました。保護者が大切にしていたことは、「規則正しい生活習慣」や「給食」といった日々の「当たり前の生活・育ち」でした。


 アンケートや日々の連絡帳のやり取り、対話を通じて丁寧に声を聞いているにもかかわらず、この調査結果のように、保育者が感じていることと、保護者の受け止めとの間にズレが残ってしまいます。背景にあるのは、声を聞く姿勢の不足ではなく、「何を聞くか」「どこに目を向けてもらうか」という「意図した問い」の設計の問題なのかもしれません。

4.気づきを促す設問は、見る視点を変える

 行事後行うアンケートで、「楽しかったですか」と聞けば、保護者は行事全体の印象を答えます。もちろん、それも大切な声です。一方で、「お子さんが自分なりに取り組んでいた場面はありましたか」と聞けば、保護者は我が子の姿を思い返します。

 

 さらに、「ねらいを〜として取り組んできましたが、当日の姿に表れていると感じましたか」や「日頃の生活の中で育ってきた力が、当日の姿に表れていると感じる場面はありましたか」と問えば、行事のねらいを伝えることにもなり、行事を単なるイベントではなく、日々の保育の積み重ねとして受け止めてもらいやすくなります。

 

 設問は、答えを集めるためだけにあるのではありません。どこに目を向けてほしいのかを示すことで、相手の振り返り方そのものを変える働きがあります。
 

5.子どもの同じ姿を見ることで、共感が生まれやすくなる

 アンケートで満足度や要望を把握することと、園と保護者の間に共感が生まれることは同じではありません。


 満足度や要望を聞くことで、園は保護者の受け止めや困りごとを知ることができます。しかし、それはあくまで「保護者がどう感じたか」を把握するための情報です。そこからさらに、園が大切にしている保育のねらいや、子どもの育ちの意味を保護者と分かち合い、共感を得るためには、子どもの姿を共に見つめ、喜び合う経験が必要になるのではないでしょうか。
 

「友だちと関わろうとしていた場面はありましたか」
「以前より自分でやろうとしていた姿はありましたか」

 このような問いは、保護者が子どもの姿を見つめ直すきっかけになります。園からの説明を聞くだけでなく、我が子の具体的な姿を通して納得できたとき、保育のねらいや日々の実践が、保護者に実感として届きやすくなります。
 

6.価値を押しつけず、設問で視点を示す

 大切なのは、園の考えを長く説明することではありません。設問の前に短い前置きを添え、どこに目を向けてほしいのかを自然に示すことです。


 たとえば、前述のとおり、行事後のアンケートであれば、次のように設計できます。
「今回の行事では、勝ち負けや完成度だけでなく、子どもたちが友だちと関わりながら、自分なりに取り組む姿を大切にしました。お子さんが自分なりに取り組んでいたと感じた場面があれば教えてください。」


 この問いは、園の価値観を一方的に押しつけるものではありません。保護者が我が子の姿を通して、園が大切にした視点を確かめるための入口になります。


 アンケートは、満足度を測り、要望を受け止めるだけのものではありません。何を聞き、何に目を向けてもらうかを設計することで、園と保護者、園と職員が子どもの姿や実践の意味を確かめ合う機会になります。
 

bottom of page