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偶然を活かす組織には、余白を生む構造がある
― 計画的偶発性理論から考える、園運営のしなやかさ ―

 キャリアコンサルティングにおける『計画的偶発性理論(Planned Happenstance)』の視点は、保育という営みや園の運営においても、大切な示唆を含んでいます。計画的偶発性理論とは、予期しない出来事や出会いを、キャリア形成や成長の機会として捉える考え方です。偶然をただ待つのではなく、偶然を学びに変えるための姿勢や準備に目を向ける点に特徴があります。
 

 しかし、ここで考えたいのは「職員に、偶然を面白がるアンテナを持たせよう」という、単純な意識改革の話ではありません。日々、命を預かる重圧と向き合う現場において、個人の気合いだけに頼ってアンテナを立て続けることには限界があるからです。

 必要なのは、精神論ではなく「構造」ではないでしょうか。マニュアルなどの基本が仕組みとして機能し、リスクへの対応や心理的安全性が保たれるからこそ、職員の脳と心に「余白」が生まれます。

 この流れの中にこそ、偶発的な出会いを捉え、学びに変える『準備』の本質があります。表面的なハウツーではなく、今回は「安全の徹底と、その上に生まれる組織の多相性」について、考えてみたいと思います。

 

1.仕組み化がもたらす「上質な余白」

 業務の基本手順を丁寧に言語化したり、動作を習得したりすると、職員は毎回迷わなくて済むようになります。すると、目の前の相手や場の変化に目を向ける余白が生まれます。この「空きメモリ」のようなスペースこそが、現場発信のクリエイティブな気づきを捉える呼び水となります。

 日々の安全管理、ヒヤリハットの運用、基本的な動線。これらが属人化されず、仕組み化されていることで、職員は確かな心理的安全性に包まれます。マニュアルは職員たちを縛るものではなく、職員の脳のメモリを解放し、日常に潜む小さな変化をキャッチする『心の余白』をもたらすのです。

 現場における観察と実行のループ、いわゆるOODAループも、自由な判断だけで成り立つものではありません。状況を見て動くためには、何を大切にし、どこを外してはいけないのかという基本が必要です。古くは戦国時代にも、予期せぬことが当たり前に起こる戦場において、農民兵にも、文字に頼らずとも伝わるよう、基本動作や判断の要点を示した絵図が作られ、訓練がなされていました。古今東西を問わず、臨機応変に動くためには、自由を支える基本が必要だったと言えるのではないでしょうか。

2. 偶然のチャンスを掴む「5つの心」

 確かなセーフティネットによって心に余裕が生まれたとき、偶然を自分の学びへと変えていく「5つの心」が現れてきます。
 

「おや?」と立ち止まる(好奇心):日常の、計画通りにはいかない一瞬に対して、心の足を止めてみる。
 

・次の手を試してみる(持続性):一度思い通りにいかなくても、そこで思考を止めず、別の関わり方を工夫し続けてみる。
 

・流れに乗ってみる(柔軟性):事前の計画にこだわりすぎず、「今、ここ」の波にあえて身を委ねてみる。
 

・なんとかなる精神(楽観性):想定外の展開に直面したときも、「きっと何か新しい発見がある」と捉えてみる。
 

・ちょっと変えてみる(冒険心):前例や「いつものパターン」から半歩踏み出し、新しいアプローチに挑戦してみる。

 これらは個人の才能というよりも、心に「余白」があるとき、誰もが自然と発揮し始める瑞々しい心の動きです。基本の安全が守られているからこそ、職員たちは迷子になる不安を抱えずに、半歩踏み出す冒険ができるようになります。

 

3. 仕組みと余白の成長への連環

 園や法人の理念に向かって、組織が着実に歩みを進めていくためには、組織としての取組だけでなく、職員一人ひとりが目標を掲げ、実践し、振り返るサイクルを重ねていくことが欠かせません。
 

 しかし、どれほど有益な目標を設定しても、日々の実践がその計画の枠内だけで完結してしまえば、どこかで停滞が訪れてしまいます。それは人間が深く揺さぶられ、働く面白さを実感するのは、自分の想定を鮮やかに超えた「未知なる変化や出会い」に触れた瞬間であるからです。だからこそ、計画の外側にある余白にも意味が生まれるのです。
 

 「計画的な成長への仕組み」から生まれる「偶発的な余白」は、もしかしたら「計画的に余白をつくる仕組み」と「偶発的な成長」という関係性でもあるのかもしれません。マニュアルや仕組みによって『計画的に余白を生み出しておく』からこそ、そこから職員の想定を超えた『偶発的な成長』が引き出されていく。この二つは、切り離せるものではなく、常に表裏一体として連環し、つながっているのではないでしょうか。
 

 何が起きるかをすべて予見することはできません。想定外のことは当たり前に起こります。しかし、何かが起きたときに、それを見逃さず、受け止め、次の実践や運営に活かせる組織であるかどうかは、園の土台によって変わります。マニュアルによって安全を担保し、心理的安全性の中で「5つの心」を起動させる。そこで職員が拾い上げてきた偶然の気づきを、実践し、園のミーティングや記録という資産を通じて共有し、自己評価・他者評価によって「価値化」していく。偶然の産物が必然のナレッジとして蓄積される流れが生まれます。

結び:多層・多相な組織へ

 全員が同じマニュアル通りの動きしかしない、あるいは計画を遂行することだけが正義である組織は、「単相(シングルレイヤー)」になりがちで、時に脆さを孕みます。

 社会の変化に対応し成長する組織とは、同じ理念と安全の土台を持ちながら、職員ごとに異なる気づきや実践が生まれる組織だと思うのです。

 マニュアルで安全を担保し、心理的安全性を保つことを縦糸に、自由な発想とチャレンジを支える『5つの心』を横糸にして、組織の彩りは少しずつ豊かになっていくのではないでしょうか。

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